ハライソ農園栽培記録

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ハッピーエンド ミヒャエル・ハネケ

 

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(全文ネタバレの覚書)

 

2年くらい前に見逃してずっと気になっていたハネケの最新作

DVDでスルメイカのように味わう

 

ハネケのテーマは初期作品から一貫していて「人間は自分のことしか考えてない 利他的な人間などあり得ない」

ファニーゲームでは極限状態の自分が助かるために子供も親もなかった 

今回は往年のもうやめてくれと言いたくなる暴力描写はないけど

大団円で自分のセレモニーを邪魔されたイザベル・ユペールが息子の指を地味に躊躇なくボキッと折るのは流石だ 

こんな暴力は初めて 期待を裏切らない新しい残酷を入れてくれる

全編美しいヨーロッパ風の重厚でゴシックな映像がラグジュアリーだ

カレーが舞台なのは一連の移民問題のフランスにおけるホットスポットだからということらしい

だからといって移民について表立って取り上げるというわけでないが

観ていると違和感としてはっきりと気になってくる

 

以下登場人物ごとのレビュー

 

主人公の爺さんジョルジュはずっと自殺しようとしている

①車で街路樹に突っ込む→その結果車椅子生活になる  

②街に出て移民に声をかけて何かを頼む→③から銃?或いは自殺幇助の依頼

③出入りの床屋に銃の調達を頼む→断られた

④エヴに入水自殺を手伝ってもらう→ギリギリで娘と息子が救助かな?

前作アムールと緩く繋がっていてジョルジュは愛する妻が寝たきりになり家業を長女に譲って仕事を辞め介護に専念 3年の介護疲れの末妻を手にかけた ハネケはインタビューで愛する人を手にかけた人がどのよう生きているのかを描きたかったと言っている

エヴにこの秘密を告白するジョルジュは後悔していないと断言 死のことしか考えていないがいざ死のうとすると自力で死ぬのは容易でない 老いのせいか資産家だからなのか・・兎に角他人の助けはマストだ

 

エヴのサイコパスぶり ソシオパス?って言うらしい

静岡で2005年におこった16歳の少女が母親をタリウムで毒殺しようとした事件にインスピレーションを受けたとのこと Yahooの掲示板に観察日記のようなものをつけていたことに注目している 事実をかきこんだSNSへの投稿をハネケはカトリックの懺悔に相当するのではないかと分析している

エヴは今どきのデジタルネイティブiPhoneとパソコンの使用は大人以上に習熟している そのギャップと子どものイノセンスが繰り出すやりとの決まり悪さという点では定番だけどsns のエロチャットとなるとパンチが効いてる

エヴはその履歴を見て自殺未遂まで起こすから子どもは取り扱い注意だ

手伝った入水自殺もとりあえずやることはiPhoneでのビデオ撮影

このイノセントとサイコパスで大人を大混乱に陥入れる感じは わたなべまさこ先生「聖ロザリンド」の怖さを思い出す

 

イザベル・ユペール演じる長女のアンヌは感情が全く見えない女性

父親から受け継いだ家業を仕切る彼女は優秀で全てを上手くコントロールしているように見える

家族以外は 

ダメ息子を専務に据えているがその息子のミスで重大な事故が起こり民事訴訟を抱えることになる

使用人の娘が一家の番犬に噛まれ怪我をするという下りは唯一綻びが見えた

犬に匂いを覚えさせるのは使用人の仕事だ

自分の娘の匂いを覚えさせてなかったのか?覚えさせてないということはどう言うことだろう

使用人のラシッドは今は妻がいるがアンヌに好意を寄せている或いは寄せていた

そもそもピエールの父親は誰なのか?という疑問も湧く

ラシッドの結婚したら出ていくのかという質問にも表情ひとつ変えずなぜ?と答えるアンヌ

 アンヌの高級チョコレートを使ったクレーム対応は完璧だ 参考にしたいと思った

完全に善人の行動なんだけど 突っ込みどころもないんだけど 自分の身の回りつまり自己保守の倫理観の歪んだコントロールの為の打算ずくの行動にしか見えない

ここはイザベル・ユペールの演技力なんだなぁと感心する ELLE も凄かったし

そしてこういう偽善のウンザリする積み重ねこそ息子が生きづらさを抱えてしまっている原因であることには全く気付いていない

自分自身の問題ってどうしてこんなに自分で気づかないのだろう 何度も考えたことのある普遍的な人生のへの問い